「ルカリオHR争奪戦」に向けた思考と優勝レポート
10月17日にフルコンプ横浜店にて開催された「ルカリオHR争奪戦」を5-0で優勝した。
結果はもちろん、事前の練習や考察が十分に活きたことに満足感を感じている。偶然などではなく、自らで掴み取った勝利だと自負している。
本稿では、強化拡張パック「白熱のアルカナ」でのシールド戦をどう捉え、どのような思考で当日のデッキを構築したのかを解説する。
すでに多くのプレイヤーが考察やカード評価を公開しているが、そのどれもが「点」の情報であり、よりマクロな視点でのハウツーを世に出すべく筆を執った。
なお、この記事はあくまで個人の解釈に基づくものに過ぎない。そのため情報を鵜呑みにするのではなく、考察材料の一つ程度に捉えてもらえると嬉しい。
加えて、鮮度を優先するためにざっくりとした解説にはなってしまうため、疑問が生じた際にはTwitterで適宜質問してほしい。多少の時間をいただく可能性はあるが、必ずお答えする。
前置きが長くなってしまったが、これから「ルカリオHR争奪戦」に参加する方はもちろん、すでに参加を終えた方でも来年以降の大会に活きる学びを提供できるよう努める。最後までお付き合いいただければ幸いだ。
「白熱のアルカナ」シールド戦の要点
カードの強弱やデッキの完成度を正しく評価するためには、まず「白熱のアルカナ」シールド戦がどのようなゲームなのかを理解する必要がある。いわばカード評価のための前提条件となる。ざっくりとではあるが、要点を6つに分けて解説する。
1. 《ドーブル》がゲームを定義する
「ドーブルカードゲーム」と揶揄されるくらいには、《ドーブル》の存在感は大きい。序盤の2~3ターンは《ドーブル》でアタッカーを複数育てて、そこから一気にサイドを取り進めていく展開になりがち。
ゆえに、デッキを構築する際には、お互いが《ドーブル》でエネルギーを加速し合う展開にどう切り込むかが重要だ。当たり前だが、HPが70しかない《ドーブル》を倒すためにポケモンVをバトル場に晒すのはあまりにもリスキー。《エンニュート》や《エンテイ》などの非ルールのアタッカーでサイドを取る展開に持ち込みたい。
また、《ドーブル》のワザで安定してエネルギーが3枚以上付くようデッキを構築することも大切である。R以上のポケモンのほとんどがアタッカーとして運用するには、エネルギー3つが必要になる。手張りと合わせてテンポよく複数体のアタッカーを育成するために、基本エネルギーは最低でも18枚は採用すべきだと考えている。
2. タイプの優劣が明確である
「白熱のアルカナ」には、草・炎・水・超・鋼・無色の6タイプのポケモンが収録されており、基本的な弱点・抵抗力の関係は以下の図のようになっている。
見ての通り、炎・水・鋼のトライアングルを中心に、一方的に弱点をつかれる草・超が並ぶ様相になっている。弱点というシステムがこのゲームに及ぼす影響の大きさは知っての通り。当然、草と超を使うにはそれなりの動機が必要だ。
また、本来ポケモンVのタイプに合わせてデッキを構築するが、《クチートVSATR》はワザに超エネルギーを必要としないため超タイプはその限りではない。
そのため、超エネルギーを使う動機となるカードがなく、弱点をつけない超タイプは他のタイプよりも大きく評価を落とす。事実、練習を重ねていくうちに超タイプをデッキに組み込むことはなくなった。
これらの事情とそれぞれのカードの評価を踏まえて、タイプごとの強弱を以下のように捉えている。
水≧炎>鋼>>草>>超
基本的には、水・炎・鋼のいずれかを主軸に、そこに1タイプを添えるかたちでのデッキ構築がベターだろう。詳しくは後ほど解説する。
3. 進化するハードルが非常に高い
「白熱のアルカナ」には、《ハイパーボール》のような特定の進化ポケモンを確実に手札に加える手段が用意されていない。あるのはコイントスの結果次第である《キャプチャーアロマ》だけ。
そのため、進化ポケモンは山札から直接引き込まなければならず、進化したいポケモンがたねのままゲームが終わることも頻発する。当然、各種VSTARであっても同じだ。
ゆえに、進化ポケモンを採用する際には、「ゲームの中終盤に引いても役割を持てること」と「進化元のポケモンが進化せずとも最低限の役割を持てること」の2つの観点から精査する必要がある。
より噛み砕いて言えば、進化元が弱く序盤に置くほど効力を発揮する《キルリア》や《ニャオニクス》、《ギギギアル》などのゲームの補助を担うカードは評価が低い。言葉を選ばなければ、採用すべきではないとすら考えている。
逆に、採用を積極的に検討する進化ポケモンはVSTARを除くと2種のみ。進化元が盤面形成に寄与し自身のワザも強力な《エンニュート》、《ヒンバス》のワザで直接進化できる《ミロカロス》だ。これらは多少進化にタイムラグが生じたとて、強力なワザを有しているためアタッカーとしてゲームに影響を与えることができる。
4. ベンチに下がることは容易である
従来は、バトル場からベンチに下げる手段が少ない場合、逃げエネが重いポケモンは優れたワザを有していても採用しないことがセオリーだった。
しかし、この環境においては《ポケモンいれかえ》と《ふりそで》の2種の入れ替え手段が用意されており、いずれも通常枠だけでなくミラー枠から排出されることもある。これらの入れ替え札がカードプールに合わせて2~3枚あることも珍しくない。
ゆえに、当然リスクは伴うものの、逃げエネが重いポケモンでも採用を検討してもよいと判断した。具体的には、《ボルケニオン》と《カイオーガ》がそれに当たる。
また、同様の理由から、ねむりやマヒなどの状態異常も絶対的な信頼を置くことはできない。余談だが、状態異常による細い勝ち筋を通すべきか、敗北を受け入れてサイドを少しでも多く取っておくべきか選択を迫られることも稀にある。
5. ベンチは比較的倒されやすい
ベンチのポケモンにダメージを与えられるワザを持つポケモンは、レアリティ問わずかなり多い。水タイプには《ミロカロス》と《カイオーガ》、草タイプには《ヤンヤンマ》と《メガヤンマ》と《ザルード》が、RR以上も含めると《マギアナV》と《クチートVSTAR》、《かがやくフーディン》と8種も用意されている。
当然、サポートには《セレナ》もあるため、ルールを持つポケモン・非ルール問わずにベンチにいるポケモンが倒されるリスクはそれなりに高い。厳密に比較したわけではないが、過去のシールド戦環境と比較しても多いのではないだろうか。
中でも、レアリティが低く必要なエネルギーが少ない《ミロカロス》の存在は無視できない。このポケモンの存在により、《ギアル》や《チュリネ》などのHP50の進化元のポケモンを使用することには高いリスクが伴う。特に前者は、デッキの安定性を向上させてくれるように見えるが、実のところ恩恵以上のリスクを抱えていることを覚えておくべきだろう。
6. ラッキナンバーは「70」
先の《ドーブル》の項でも少し触れたが、このゲームでは70ダメージを出せるポケモンは非常に重宝する。《ドーブル》のほかにも、《ヤトウモリ》や《ペラップ》など序盤~中盤にバトル場に置きやすいポケモンを低リスクで処することができるからだ。
具体的には、2エネで80ダメージ+αを出せる《エンニュート》、2エネで最大210ダメージ出せる《ザルード》、《ダブルターボエネルギー》付きの《エンテイ》などが該当する。
プレイアブルなポケモンの中にはHP130のものも多いことも、「70」のダメージが重要な理由だ。逆に、2回ワザを宣言しても《ドーブル》や《ヤトウモリ》を倒せない《バドレックス》の評価は極めて低い。ファーストインプレッションと現在の評価とで最も差がある1枚かもしれない。
また、中盤以降ポケモンVで高火力を与えた後、上記のような70ダメージ前後のワザで残りHPを削り切る展開も頻出する。例を挙げだしたらきりがないが、具体的には以下のようなシーンで「70」のダメージが活きる。
- 《レシラムV》の「ホワイトブレイズ(200)」を受けた《クチートVSTAR》を《エンテイ》の「ツメできりさく(90)」で倒す
- 《ジャローダVSATR》の「ロイヤルミキサー(190)」を受けた《アローラロコンVSATR》を《ザルード》の「さんれんのムチ(70~210)」で倒す
同じような理由から、1エネで20ダメージ出せるポケモンも活躍の機会は多い。《ザルード》はもちろん、《フリーザー》や《ラブカス》、《マスキッパ》などがそれに当たる。
このように、デッキを構築する際には、ポケモンごとのダメージの噛み合いを意識して構築することが非常に重要である。
ここまでの内容をまとめる。
1. 《ドーブル》がゲーム性を定義している
2. タイプの優劣がはっきりしており、中でも超タイプをやる動機がない
3. 進化ポケモンを確実に持ってくる手段がないので評価は低い
4. ベンチに下がることは比較的容易なので逃げエネが重くても採用可
5. ベンチのポケモンは比較的倒されやすい
これらを踏まえて、カードの評価を見ていこう。
各カード評価
上記は、先に説明した要点に基づいて各種カードを評価した表である。それぞれのランクは単純な優劣だけでなく、以下のような意味合いを持たせている。
S:色を決める動機になる、構築を歪める価値あり
A:色やコンセプトが合致するなら採用する
B:枠を埋めるために可能性がある
C:特定のデッキやマッチでのみ採用する場合がある
D:原則アンプレ
見てわかるように、進化ポケモンとその進化元となるポケモンのほとんどをアンプレイアブル(ここでは使用に耐えないの意)と評価している。これは、先に説明したように《ハイパーボール》のようなサーチ手段がないことに起因する。
渡されたカードプールによるが、SランクおよびAランクで8~10枚のたねポケモンを確保できるのが理想的。多く見積もっても、Bランク以下のポケモンは2枚程度の採用に留めたい。
トレーナーズは、パックから排出されたものは原則すべて採用する。採用の是非が議論されている《きんきゅうゼリー》についても、ポケモンVを使う以上は抑止力として一定の効能を発揮するので1枚までは採用すべきだと考えている。
カードの個別評価は、以下のスプレッドシートに簡単にまとめてある。それほど目新しいことは書いていないが、よければご一読をば。
【全体公開用】白熱のアルカナ_シールドカード評価 - Google スプレッドシート
2タイプの組み合わせごとの評価
まず、この環境において、採用する基本エネルギーは原則2種類までに留めるできであることを名言しておきたい。
VSATRポケモンはいずれもエネルギーの色拘束が緩いため、ついつい3色でデッキを組みたくなるが、Rのポケモンのほとんどが自身のタイプ2つ+無色1つを要求する。ゆえに安易な多色化は事故のもとになる。
では、組み合わせる2タイプはどう選ぶべきか。
基本的には、各種VSTARやVを使えるタイプを選ぶことになるが、その上で互いの弱点を補完し合う2つを選べき。たとえば、《ジャローダVSTAR》と《マギアナV》を使うために愚直に「草+鋼」で構築すると《レシラムV》に蹂躙されることは想像に難くないだろう。
加えて、「そのタイプにできること、できないこと」を意識することも大切だ。
具体的には、R以下のポケモンでベンチの手負いのポケモンを追撃するのは、《ミロカロス》や《カイオーガ》がある水タイプか《ザルード 》や《ヤンヤンマ》、《メガヤンマ》がある草タイプの専売特許。これら2タイプは、2色目としてたびたび使用することになる。
それらを踏まえて、各組み合わせを以下のように評価した。
S:水+炎、水+鋼
A:炎+鋼、炎+草
B:ホウオウ多色、水+草
C:草+鋼、水+超、
D:炎+超、草+超、鋼+超
相手のデッキが分からない限りは、CランクおよびDランクの組み合わせはできるだけ避けたい。弱点が被ったり攻め方が一辺倒になったりするリスクを孕んでいるからだ。
もちろん、シールド戦において、いつでも上位の組み合わせを選べるわけではない。十分な数のアタッカーを確保できなければ、リスクを取って3種類目の基本エネルギーを採用せざるをえないこともある。
最終的には出たとこ勝負になるが、当日ゼロベースで考えるよりも強い組み合わせを頭に入れておくほうが構築時間をずっと短縮できる。
さらに踏み込んで言えば、各組み合わせの強弱を理解していれば致命的な組み間違いをするリスクも減る。強いプールを貰ったときに強いデッキを組める準備をしておこう。
当日のレポート
ここからは、実際に当日貰ったカードプールとデッキリストを見ながら、どのような思考でデッキを構築したかを解説する。ぜひ自分ならどう組むかを考えながら読み進めてほしい。
カードプールを確認した際、まず目を引くのはRR以上のポケモンがタイプを問わない《クチートVSTAR》と炎タイプをやる動機になる《レシラムV》であることだ。
これにより、おおむね「炎+α」でデッキを構築することが決まる。同時にカードプールに完成度が大きく左右される割に、それほど強くない「ホウオウ多色」を避けられることが分かり内心ホッとした。
先のタイプ評価でSランクに据えた「炎+水」をやる動機づけになる《ボルケニオン》があり、《レシラムV》のワザで手負いになったポケモンをコスパよく撃ち落とせる《ミロカロス》があることを確認。《アローラロコンVSTAR》こそないものの、「炎+水」で構築する価値が高いと判断した。
同じく先に説明したように、3タイプ目のタッチはしない方針なので《クチートV》や《かがやくフーディン》があるものの基本超エネルギーは採用しないことに。リターンのないリスクは犯すべきではない。
最終的には、以下のようなリストになった。
詳細な対戦レポートは省略するが、多くの対戦は《レシラムV》か《ドーブル》と手張りで2~3匹のアタッカーを育成し、淀みなくサイドを取り進める展開となった。サイドを先行することよりも、アタッカーを途切れさせないことを意識し立ち回った。
さいごに
シールド戦といえど、ポケモンカードであることに変わりはない。
ポケモンにエネルギーを付けて、ワザを使い、サイドを取りきったほうが勝ち。《ドーブル》でエネルギーを加速するのも、サポートでカードを引くのも、すべてはワザを打ちサイドを取り進めるための「手段」でしかない。それを念頭に置いて、デッキを構築することを心がけてほしい。
また、記事中ではデッキは2タイプでまとめることを推奨しているが、結局のところリスク・リターンの話しでしかないので、多色化を否定したいわけではない。カードプールを見たときにどこまでのリスクを受け入れるべきかの線引きは、繰り返し練習する中で自分のものさしを見つけてほしい。
最後に、勝率を上げるために意識すべきは、「弱いカードを使わないこと」と「大局観をもってゲームを進めること」の2つ。特に後者は、誰しも意識的に取り組む期間を設ける必要があると考えている。スタンダードだけでなく、シールド戦や構築済みデッキ同士での対戦、PTCGOのテーマデッキ戦などを繰り返すのがおすすめ。
長々と講釈を垂れたが、少しでも学びを提供できたら幸いだ。もし疑問があればTwitterで気兼ねなく尋ねてほしい。誠意をもって回答することを約束する。
校正:ふうか